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2012-11-29 競馬と税金

当たり馬券配当30億円、外れは経費?…裁判
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121129-OYT1T00868.htm
競馬の馬券配当で得た所得を申告せず、2009年までの3年間に約5億7000万円を脱税したとして、所得税法違反に問われた会社員男性(39)が大阪地裁の公判で無罪を訴えている。

 配当を得るための「必要経費」には膨大な外れ馬券の購入額も含めるべきで、当たり馬券だけから算定したのは不当と主張。国税関係者は「競馬の必要経費が法廷で争われるのは例がない」と審理の成り行きを注視している。

 国税当局は、必要経費について「収入の発生に直接要した金額」と定めた同法を根拠に、競馬の場合は当たり馬券の購入額のみと判断。配当額から必要経費を差し引いた所得を「一時所得」とし、一般的には給与以外の所得が年20万円を超えれば確定申告が必要になるという。

 男性の弁護人らによると、男性は07~09年の3年間に計約28億7000万円分の馬券を購入。計約30億1000万円の配当を得ており、利益は約1億4000万円だった。

 大阪国税局は税務調査の結果、配当額から当たり馬券の購入額を差し引いた約29億円を一時所得と認定したとみられ、無申告加算税を含む約6億9000万円を追徴課税し、大阪地検に告発。地検が在宅起訴した。

 今月19日にあった初公判で、検察側は「男性は確定申告が必要と認識していた」と違法性を主張。男性は「多額な所得を得た事実はない」とし、弁護側は「外れ馬券も含めた購入総額こそが必要経費。一生かかっても払えない過大な課税は違法性があり、無効だ」と反論した。

 男性は、課税を不服として大阪国税不服審判所に審査請求している。

        ◇

 男性の弁護人らによると、男性は会社員としての年収が約800万円。04年頃、競馬専用の口座を開設して約100万円を入金し、競馬予想ソフトを使って、過去の戦績などから勝つ確率の高い馬を選ぶ方法を独自に開発した。馬券の購入にはインターネットを利用し、仕事のない土日に全国の中央競馬のほぼ全レースで馬券を買い、配当収支の黒字が続いていた。

 その配当金は自転車操業的に次の購入資金に充てており、口座には週明けに馬券の購入総額と配当総額の差額が入金。このため残高が数十億円単位になることはなかったという。

(2012年11月29日14時45分 読売新聞)


 こんなので裁判になるとはネタとしては面白いですね。
 普通に考えると、他のレースのハズレ馬券を《必要経費》にするのは、無理があるんじゃないか、ということになるわけですが・・・

 そもそも所得税法における「必要経費」とか「その収入を得るために支出した金額」とは何なのか、その性質等について語り出すと、それこそ簡単な論文が一本書けるんじゃないかなと思うので止めておきますが、たとえば、国税不服審判所における過去の裁決事例などを見てみますと、一時所得の計算における「収入を得るために支出した金額」については

 『所得税法第34条第2項が、一時所得の金額の計算における控除の対象を、「収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)」と規定している趣旨は、一時所得に係る支出には、収入が得られた時はその控除項目としての意味をもつと同時に、一種の消費支出としての側面があることから、一時所得に係る収入、支出については、収入を生じた各行為又は各原因ごとに個別対応的に計算し、その反面、収入を生じない行為又は原因に係る支出は控除項目から除外することにあると解される。このような趣旨にかんがみれば、「その収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額」とは、収入を得るために直接支出した金額など収入を生じた各原因ごとに直接支出した金額に限られると解するのが相当である。』(平22. 2.19 東裁(所)平21-122 裁決事例集No.79)

 とされています。

 これを競馬のアタリ馬券に当てはめてみると、第1レースがハズれて第2レースが当たった場合に、《第1レースのハズれがあったからこそ第2レースが当たった》という直接的な因果関係が必要ということになりますよね。
 第1レースの結果と第2レースの結果の因果関係を立証するのは、まずムリだと思います。
 それが出来ない以上、第1レースのハズレ馬券代を、第2レースのアタリ馬券の「収入を得るために支出した金額」として控除することはムリ、ということになってしまいますね。

 ところで、「一時所得」については「一時所得」同士での損益通算が認められています。
 これは国税庁のWEBサイトでも例が記載されていますが、A保険の解約返戻金が《-100万円》で、B保険の満期返戻金が《+800万円》だった場合、A保険とB保険を通算して《700万円》の利益として計算できることになります。

 「じゃ、競馬の場合も同じで、一時所得同士の損益通算として、他レースのマイナスを通算できるんじゃないのか?」となるわけですが、この点について所得税法第34条第2項の文言では、収入から差し引けるものについて《その収入を生じた行為》とか《その収入を生じた原因》としているわけでして、競馬の場合、ハズれてしまうと収入は全く発生しませんよね?
 そうすると

 ハズれる→収入が発生しない→《収入を生じた行為》とならない→一時所得にならない→損益通算の余地が無い

 となってしまうのです。
 
 まぁ、「さんざんハズして損したのに、当たったときだけ税金が課せられるのかよ!」と、何となく《不公平》を感じる気持ちは分からないでもないですけど、現行の所得税法上は仕方がないのでしょう。上記のように法律の理屈として、他のハズレ馬券を必要経費と出来るようなカタチになっていないワケですから。

 ちなみに、「一時所得」というものは

 (収入金額-経費-特別控除50万円)×1/2

 として計算します。すなわち、収入から経費を引いて、さらに50万円を引いて、それを2分の1したものに課税、ということですので、結構、優遇されているのですから、現状は、コレで我慢するしかない、ということになりますかね。



 ・・・というのが、一般的なお話。
 実は、反復継続して取引することによって営利性が出て事業(雑)所得になる、という考え方もあります。

 この点、有価証券の売買と違ってギャンブルについてはどうなんでしょ?
 営利性の判断については《社会通念上どうなのか》ということも影響を与えるはずですが、この《社会通念上》という観点からすると、ギャンブルについて、これを事業所得や雑所得として認めてもらうのは、ハードルが高そうです。

 ただ、絶対に無理、というワケではないと思います。
 今回の事件の場合、納税者は《全く申告していなかった》というのが心証を悪くしていますが。
 例えば、最初から《事業としてやるんだ》という意識のもと、きちんと帳簿も付けて、税務署へも届出をして、正しい申告を最初から行っていたとしたら・・・

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